スペインの高級ブランドLOEWE(ロエベ)とスタジオジブリのコラボ。少し違和感のある組み合わせだと思った。高級ブランドがアニメと組むのには、いったいどんな目的があるのだろうか。こうした疑問を、Instagramの投稿とコメントを定量・定性の両面から分析して検証した論文がある。
今日の論文
- 著者: Theodore Gournelos ― オールドドミニオン大学(米バージニア州) / David Marutschke(ダービッド・マルチュケ) ― 大阪経済大学経営学部
- タイトル: “Anime and Luxury Fashion: Studio Ghibli and Loewe’s Unorthodox Brand Merchandizing”(アニメとラグジュアリーファッション ― ジブリとロエベの型破りなブランド商品化・仮訳)
- 掲載: Journal of Anime and Manga Studies 第6巻2号(2025年)、pp. 1-42 / DOI: 10.21900/j.jams.v6.1974
- 論文はこちら: https://doi.org/10.21900/j.jams.v6.1974
- アクセス: オープンアクセス(CC BY-NC 4.0)
どんな論文?
この論文が言っているのは、ひとことで言えば「高級ブランドがアニメと組むのは、一見唐突に見えても、実は入念に計算されたブランド戦略だ」ということだ。
背景にあるのは、2つの巨大産業の急成長である。業界統計によればラグジュアリー市場は1985年の200億ドルから2024年には2600億ドル超へと膨張し、牽引しているのは中国やインドを含むミレニアル世代とZ世代である。アニメもまた海外へ市場を広げており、両産業は同じ若い層に向き合っている。
著者らはこうしたコラボを、結びつきの強さで3つに名づけ分ける。作家や作品の美学・物語をまるごと引き受ける「embodied(取込)型」、アニメを意匠として添える「embedded(埋込)型」、既存の商品にキャラクターを貼りつけただけの「extracted(抽出)型」である。ロエベ×ジブリは前二者にまたがるという。
著者らは、2021年から2023年までの3回のコラボ(トトロ、千と千尋、ハウル)を対象に、ロエベ公式Instagramの投稿とユーザーのコメントを数え上げ、分類していく。そこには称賛と反発が入り混じっていた。著者らの見立てでは、ロエベの狙いはジブリファンを新規顧客として取り込むことではない。むしろ、ブランドの「文化的な妥当性(relevance)」と「文化とのつながり」を示し、SNS化が進む市場で他ブランドより先鋭的な位置を取ることにある。若くグローバルな感覚を持つ「未来の上顧客」への文化的な種まきだ、と私は理解した。
もう一方の当事者であるジブリは、このコラボについて公式アカウントで一度も発信していない、と論文は指摘する。著者らはこれを、ジブリが意図的に距離を置いた結果と読む。だとすればこの沈黙は、アニメ側にとってのコラボの位置づけの難しさを、静かに物語っているのかもしれない。なお著者らは、考えにくいとしつつ、ロエベ側が展開方法をコントロールしていた可能性も付言している。
ここが面白い&読んでみてほしいポイント
ブランドとアニメのコラボを見かけることは最近では珍しくないが、それが単なる「市場拡大」ではなく、ブランド価値そのものの形成に関わっているという指摘には、なるほどと思わされた。そして、唐突に感じられた両者のコラボをSNSのデータを元に可視化したところに、この論文の面白さがある。
考えさせられるのは、「ラグジュアリー」という概念そのものの変化だ。かつての贅沢は、希少さや格式で定義された。この論文でも取り上げられている社会学者ピエール・ブルデューは、著書『ディスタンクシオン』(1979年)で、人が趣味や持ち物の選択を通じて自分を他の階級と区別し、社会的な位置を示していることを論じた。高級ブランドは、まさにその「区別」の記号である。ただ、価値観が多様化した現代では、「何を持つか」だけでなく「どんな物語とつながっているか」が、新しい区別の記号になりつつあるのかもしれない。トトロのバッグへの賛否が割れること自体が、実は狙いのうちだったのかもしれないと思わされる。
そして、やはりジブリの沈黙が印象に残る。ジブリの側にも、このコラボに何らかの思惑はあったはずだ。しかし、コンテンツ側にとって既存のファンは最も大切な資産であり、世界観との齟齬や既存ファンの反発は、ブランド側以上に重くのしかかると想像される。沈黙はそのリスクを避けるための距離の取り方だったのかもしれない。ブランド・コンテンツ・既存ファン・新規ファン。それぞれが異なる思惑を抱えていること。そこにこそ、コラボというものの難しさがあるのだと考えさせられた。論文の続きはぜひ上記のリンクからご確認いただきたい。
※本記事は、論文の機械翻訳とAIによる要約を参考にしつつ、原文の要所を筆者自身が確認したうえで執筆しています。それでも誤りが含まれる可能性があります。お気づきの点があれば、ご指摘いただけるとありがたいです。訂正を行った場合は訂正の記録に記載いたします。
カテゴリ: 論文レビュー / タグ: #ジブリ #ロエベ #ラグジュアリー #マーケティング #日本研究
出典: Gournelos, Theodore, and David Marutschke. “Anime and Luxury Fashion: Studio Ghibli and Loewe’s Unorthodox Brand Merchandizing.” Journal of Anime and Manga Studies, vol. 6, no. 2, 2025, pp. 1-42. https://doi.org/10.21900/j.jams.v6.1974 (CC BY-NC 4.0)
※マルチュケ氏はドイツで日本研究と経営学を学び、いまは大阪経済大学でブランドや顧客体験を研究するマーケティング研究者。日本のコンビニチェーンの「継続的改善」戦略を分析した著書も出版している Continuous Improvement Strategies: Japanese Convenience Store Systems(Palgrave Macmillan, 2012)。興味のある方は出版社ページをご覧いただきたい(https://link.springer.com/book/10.1057/9780230355668)
