『天空の城ラピュタ』のモデルとされる町が、イタリアにある。ただし、宮崎駿がそこを見たという証拠はないという。それでも人がそこを訪ね感動をSNSで発信する。そんな現象を調査した論文がある。
今日の論文
- 著者: Giulia Lavarone・Marco Bellano ― パドヴァ大学(映画研究・アニメーション研究)
- タイトル: Anime tourism in Italy: Travelling to the locations of the Studio Ghibli films (イタリアにおけるアニメ・ツーリズム ― スタジオジブリ作品の舞台をたずねる・仮訳)
- 掲載: Mutual Images Journal 10、2021年、pp.217-250 / DOI: 10.32926/2021.10.lav.italy
- 論文はこちら: https://doi.org/10.32926/2021.10.lav.italy
- アクセス: オープンアクセス(CC BY 4.0)
どんな論文?
この論文が言っているのは、ひとことで言えば、アニメを追って旅する人にとって、その土地が「本物」かどうかは、作り手が実際にそこを見たかどうかでは決まらない、ということである。
イタリア中部にチヴィタ・ディ・バニョレージョという町がある。谷に架かる300メートルの橋でしか行けず、霧が出ると空に浮かんで見える。地滑りと浸食で少しずつ削られつづけ、住人は8人まで減った。「死にゆく町」と呼ばれてきた場所である。この町を訪れる人は2007年の約4万人から、2019年には100万人を超えた。日本からの客が目立つ。『天空の城ラピュタ』のモデルとされているからだ。
ただし、宮崎駿がこの町を見たという証拠はない。論文によれば、ラピュタの風景のもとになったのは1985年のウェールズへの取材だという。2018年、町の担当部署は映画関係者に依頼して、宮崎本人へ問い合わせの手紙を送っている。
裏づけのない場所を、人はどう訪れているのか。著者らが集めたのは、日本語で書かれたツイートである。ラピュタとチヴィタで215件、『紅の豚』とイタリアまたはミラノで873件。そこから実際に訪れたことが確かなものを選び、書かれた言葉と貼られた写真を一つずつ読んでいく。チヴィタを訪ねた78件のうち21件が、そこにラピュタが本当にあったという趣旨のことを書いている。晴れて橋が見えてしまい、浮いて見えないと残念がる投稿がある。人けのない路地と、崩れかけた石壁と、猫の写真が並ぶ。
もう一つ著者らがSNSの情報を収集したのは、『紅の豚』の舞台となったミラノについてである。ミラノは、作中に地名がはっきり出てくる「確かな」場所である。ところが懐かしさをはっきり口にした投稿は42件中2件しかない。ナヴィリオ運河のあたりは今も夜が賑やかで、失われた世界という物語と折り合いをつけにくいのではないかと著者らは読む。
あいまいなほうがかえって受け止められる。著者らの見立てでは、失われた世界の物語を重ねやすいのは「空いている」場所のほうである。人けのないチヴィタと、夜になれば人の集まるナヴィリオ。同じイタリアで、同じ宮崎作品につながる二つの土地が、そこで分かれたのではないかという考えである。
ここが面白い&読んでみてほしいポイント
観光地が実際の作品の舞台であることの証明は難しい問題だと思う。特にそれが、アニメ作品の聖地である場合さらに複雑になるだろう。現実の場所をそのままトレースしたわけではなく想像によって補完されている部分は多いのではないか。ジブリ作品が持つ郷愁の感覚は、実在の風景そのものではなく、そのような雰囲気を持つ景観全体にも及ぶように思う。論文にも、これに関わる先行研究の調査が紹介されていた。それによると、そうした場所は88か所も見つかっており、その半分以上は日本国外だという。
聖地巡礼は、作品の舞台を正確にたどる行為だ、と言い切るのも困難だろう。では、巡礼は何をするために場所を巡っているのか。一つには類似する空間を体験することであたかもその作品の中に溶け込んだかのように感じることがあげられるだろう。それはモデルとされた場所への訪問よりも、作品の空気を感じることにあるのかもしれない。
『千と千尋の神隠し』のモデルの一つとなったとされる場所に行ったことがある。実際に見た旅館は作品の湯屋とは全く異なるが、その静謐とした空気感は、映画の1シーンを思い起こさせるようで、旅の一つの目的となるにふさわしい体験であった。一方で、『ジョジョの奇妙な冒険』の舞台となったヴェネツィアを訪れたときには、その喧騒が漫画の雰囲気と結びついているような気がした。場所は確かに作品と旅の思い出を結び付けているようだが、それがどんな要素を持っているからなのかを考えてみるのも面白い。論文の続きはぜひ上記のリンクからご確認いただきたい。
※本記事は、論文の機械翻訳とAIによる要約を参考にしつつ、原文の要所を筆者自身が確認したうえで執筆しています。それでも誤りが含まれる可能性があります。お気づきの点があれば、ご指摘いただけるとありがたいです。訂正を行った場合は訂正の記録に記載いたします。
カテゴリ: 論文レビュー / タグ: #天空の城ラピュタ #紅の豚 #ジブリ #聖地巡礼 #イタリア #日本研究 出典: Giulia Lavarone & Marco Bellano, “Anime tourism in Italy: Travelling to the locations of the Studio Ghibli films,” Mutual Images Journal 10 (2021), pp.217-250. https://doi.org/10.32926/2021.10.lav.italy (CC BY 4.0)
※チヴィタ・ディ・バニョレージョは地滑りと浸食で少しずつ失われつつあり、ラピュタと重ねる投稿のなかには、消えてしまう前に行ってほしいと呼びかけるものがあったという。
